最近の読み物

今日読了したものと、感想書いていなかった数点についての感想。
BGMは、GARNET CROWのベスト版。アルトボーカルが素敵な、私が好きなGIZA所属のアーティストです。


 鬼流殺生祭 貫井徳郎著 講談社文庫


時は維新後の文明開化の時代、帝都東京のある邸宅で起こった殺人事件。
屋敷の人々の証言と物理的見地から、当初物取りの外部犯と思われたこの事件は、だが予想外に複雑な謎を垣間見せ始める。
殺された青年と親交のあった九条は、過去の因習めいたものを強く感じさせる閉鎖的な霧生家の面々と関わりながら、事件についての調査を始める。
なかなか見えてこない真実に困惑する九条・・・そうこうするうちに、事態は新たなる局面を見せ始め、次なる犠牲者へと繋がっていく。
友人の蘇芳の助言を得ながら、真実へと少しずつ近づいていく九条が最後に知った悲しき真実とは?


個人的にかなり好きな話でした。
この前に読んだ貫井氏の作品(下参照)が、ちょっとアクが強い感じだったので、すんなり入りやすいこの物語にむしろ戸惑う部分もあり。まあ、主人公の性格辺りが大いに関係してそうだけど。
物語としてはかなり凄惨な部分もあったりして、悲壮な雰囲気が漂いそうなんだけど、そこをさらっとした文体で仕上げて比較的読みやすくなっているので、重厚するぎる物語が苦手な人にもオススメ。
この物語には大きな核となる謎が隠されていて、それが事件のすべてと繋がっていたわけですが、まあいつものように、まったく思いつきませんでした。
ただ、この部分はごく普通の推理小説とは少し違うアプローチといえばそうかも。
参考文献のところで、書名を明かす事で真相解明に繋がってしまうものがありますと書いてあって、一瞬ん?考えて、そうかなるほどなーと納得したりね。思いつかん人にはまったく思いつかない謎であると思われます。
友人蘇芳の薀蓄、吸血鬼の話やラプラスの悪魔*1の話辺りなんかは、結構興味深く読んでました。
あまり薀蓄ばっかりの本は好きじゃないけど、さりげない薀蓄はかなり好きだったりします〜



 神のふたつの貌 貫井徳郎著 文春文庫


牧師の息子として、神の存在を感じたいと願っていた少年・早乙女。
町に現れた一人の青年を発端として、彼は神へ近づく手段として、殺人者の道を選び取った。
時代は流れ、己を取り巻く環境は変わっても、心の中に闇を持ち続ける早乙女。
その闇は遺伝子として血を繋ぐ者から受けたものなのか、そして受け継がれていくものなのか・・・
最後に真実が明かされる時、彼の心には安らぎは訪れるのであろうか。


貫井作品の中で、「慟哭タイプ」と私が勝手に位置づけている種類の作品。
貫井氏の作風として、もはや定着しているものなのかな〜あまり詳しく書くとネタバレになりそうだけど、手法自体はもはや見慣れた感があります。
ただ、その手法が主題ではもちろんなく、強いメッセージを秘めた作品でもあるわけですが、キリスト教関係の知識がまったくない私は、その辺はイマイチすんなり頭に入ってこなかったです。
過去何度か、このように宗教に強く関わるような作品を読んだ事があるけど、大概はやっぱり理解できなかった記憶がある私は、基本的に宗教というものと体が馴染まない体質なのかもしれない・・・・
どちらかというと、物語の中に入り込むというより傍観者という感じで読み進めていたかな。
「神の沈黙」というテーマに関しては、少し考えさせられる部分もあった作品でした。



 死んでも忘れない 乃南アサ著 新潮文庫


どこにでもいる三人家族にある日起こった、ほんの小さな事件。
些細な出来事に見えたこの事件をきっかけに、まるで悪魔に魅入られたかのように不運な偶然は重なり、次第に家族を追い詰めていく。
小さなすれ違いが大きな溝へとつながり、転落への一途を見せるこの家族に救いは訪れるのであろうか・・・


日常に潜む、ほんの些細な出来事から始まる崩壊・・・乃南氏が扱う事も多いこのテーマは、個人的にかなり好き、というか興味引かれる部分です。
不運な偶然ってのはある意味よくある事で、そこから何かが壊れる事もありえることだけど、そういうのって大概、人々の弱い部分を直撃するんだよね〜
病気なんかも同じで、菌を体内に入れてしまうのは不幸ではあるけど、誰にでも起こりうる事故でもあり、その時体に弱い部分を抱えているかどうかがその人の明暗を分ける、とでも言えばいいのかな?
要は、弱い部分判定の道具にもなるわけです*2
自分達では気づいていなかった脆い部分って、誰もが抱えていると思うんだけど、それが明らかになった時にどうするか、どうなるかで本当の強さってのが見えてくる・・・「緊急時にその人の本質が見える」なんて使い古された言い回しではあるけど、真理だよな〜と思います。
果たして自分は、緊急時にどんな行動を起こすんだろうなあ・・・
それにしても、始めの事件−痴漢に間違われる−って奴には、ものすごーく憤りを感じますねえ。

*1:「原因があれば、必ず唯一無二の結果がある、というラプラスの唱える黄金法則のこと。」とは、本文蘇芳のセリフ。私はこれ以上の知識はまったくないです。

*2:あくまで「些細な」ものの場合だけ。大きすぎる不幸に対しては、そんな事言っている余裕はないと思います。