殺意・鬼哭 乃南アサ著 双葉文庫

殺人者と被害者の独白で綴られるという、ちょっと変わった一作。
始めは、なかなか進まない繰り返し繰り返しの思考に、もどかしいなーとも思ったけど、そこから少しずつ明らかになっていく二人の関係や事件の状況に、ある一人の人間の思考の過程として、かえってリアリティーを感じる部分もあり。
この作者にしては、ちょっと珍しい作風かも?


 堪忍箱 宮部みゆき著 新潮文庫

何作か読んできた宮部みゆきの時代小説ですが、これがラストかな。
今回もほんの短い短編の中に、ひやっとするような謎が隠されています。
個人的には、今まで読んだ作品より少しパンチ力が弱いような感じもしたけど、どちらかというと闇の部分に焦点を当てた作品ゆえに、そうなるのかもね。
静かなる怖さをゆったりと堪能すべし。


 象牙色の眠り 柴田よしき著 文春文庫

家族としてのつながりも薄い、ある怠惰な金持ちの家で起こった凄惨な事件。
家政婦の瑞江から見ても、恐ろしい殺され方をするような人物はいないように思われるのだが・・・
この作品、謎解きとしての伏線がいくつかあって、そのうちの一つにはちょっとピンと来る部分がありましたが、あれっておとりの一つなんだろうなあ(そこに注意を向けさせて、本当の深い謎には気づかれないようにするという)。
メインの謎解きは正統派、サブの謎解きは少し珍しいタイプかも。
ただ、それにもまして人間心理のほうの描写がすごくて、謎が解けた今、もう一度じっくりと登場人物の心理を読み解きながら再読してみたいなあ〜


 誰か 宮部みゆき著 光文社

義父の運転手をしていた男性が、事故とも事件とも取れるような状況で亡くなる。
そしてその娘たちから、犯人を暴くために父の伝記を書きたいと頼まれる「私」であったが、姉の方はこの提案にあまり乗り気ではない様子。
姉妹の食い違いに戸惑いながらも、少しずつ運転手の過去に迫っていくのであるが・・・
幸せな探偵役を書いてみたかったという宮部氏の言葉どおり、とってものほほんとして、家族にも仕事にも恵まれている「私」が解いていくミステリー。
しかし暴かれる謎は、のほほんとした「私」とは対照的な、人間の闇を感じさせるもので、このギャップがよりいっそう作品の謎に怖さを加えてるなーと。
姉妹、特に姉から「私」への最後のほうのセリフには、何とも言えない気持ちになりました・・・


 時生 東野圭吾著 講談社文庫

不治の病にかかる息子の最期のとき、夫は語りだす。
−おれは、20年以上前にあいつに会った事があるんだ−
若かりし頃の夫の前に現れた不思議な青年と、彼と共にたどった事件。
一人の若者の成長の記録でもあり、過去から未来へとつながる壮大な作品。
まあ、私個人がかなり東野圭吾好きというのもあって、500ページを越える分厚い文庫を一気に読んでしまったわけですが、やっぱり面白かった!というのが一番しっくりくるかなー
色々言うまでもなく、というか色々無粋な事は言わずに、この作品をじっくり楽しむのが一番。
それにしても、主人公の若気の至りには、何とももどかしい思いをさせられました(笑)


 99%の殺人 岡本二人著 講談社文庫

ある一人の男性が、死の床で綴った手記。
彼の息子の誘拐の顛末が詳細に書かれたこの手記は、彼の死から12年後に再び表舞台へと出る事になる。
現代の科学技術を駆使した新たなる誘拐事件の結末とは・・・?
今でこそ一人に一台パソコンの時代ですが、この作品が初めて世に出たのが1988年・・・
当時まだパソコンは専門家や裕福な人達の間にしか普及していない時代で、これだけの技術を使った作品というのはすごいなーと素直に感心しました。
この事件の犯人自体は早い時期から明らかにされ、犯人と被害者家族(警察)との緊迫感のあるやり取りに焦点が行きつつも、その中に伏線がちりばめられているので、そういう視点で作品を読む人には油断できません(笑)
スピード感がある映像にすると面白いかもと思うような作品でした。
少し、ラストの収束に不満ありだったかなー伏線の回収がしきれてないような・・・