いつだかもう覚えていない読み物

 リミット 講談社文庫 野沢尚

有働公子は同じ警察官の夫を事故で亡くした女刑事、一児の母でもある。
とりたてて有能というわけでなかった彼女の特技は、被害者や容疑者達の生の声を伝える事情調書取りだった。
そんな彼女がある誘拐事件の母親役で、犯人とやりとりをすることになる。
やがてこう着状態を迎えた事件の中で、公子は息子の行方不明の事実を知る。
そんな時、犯人から掛かってきた電話、そして送られてきた息子の小指・・・
一転して被害者となってしまった彼女は、すべてを敵に回してでも息子を取り戻すことを誓う。
事件の裏に見え隠れする臓器密売、自分の存在を証明するために裏社会に染まってきたかのような澤松智永という女性、そしてさらに隠された何者かの存在。
公子は息子を無事取り戻すことができるのか?そして事件に隠された真相とは??


うーん、いつのまにスルーしてしまったのか謎ですが、すっかり書くのを忘れてましたー
ちょっと思い出そうと思ったらまた引き込まれて、少々飛ばしつつも再読してしまった☆
一番始めに思い出したのは、始めの書き出しがかなり怖かったことかな。
淡々と、さらわれた時の状況のリアルな描写、それとまったく温度が異なる子供達の客観的身体データ・・・ああ、「もの」として見てるんだなあと実感されてね。
それと同じように、かなり衝撃だった一文。
―朝の通学路でクリーンな臓器が群れをなしている光景―
これを単純明快な論理と割り切ることの怖さ、どう思いますか?私はでも、自分がそういう発想は絶対しないとは言えないなーと思った。もちろん、発想することと実現することは別物だと思うけどね。
そしてさらに畳み掛けるように、この事件の関係者達の身辺描写。
今回の主犯の智永の経歴、抱える矛盾、人間の多面性は限りない可能性があるなーと・・・って、最近よく書いてる気がするけど。
ただ、ちょっと気づいたのですが、この矛盾ってのは諸刃の剣で、それだけの深みを感じさせる時もあれば、なかなか登場人物が心に入ってこない現象が起こる時もあるような気がします。
今回は、私的には結構すーっとなじんだんですが、野沢作品の人物にリアルさがないという人は、そういう所が合わないのかもなあ・・・私もたまに合いません(笑)
まあ、それを万人に合わせるのがベストセラーの条件なのかもしれないけど、みんなのベストよりも自分のベスト、オンリーワンの方が価値あるからね〜
そういう作家さんに出会えたことは幸せなのかもね☆